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けれども、俺の決心は既についていた。
「やり直せるなら、もう一度やりなおしたい。
姉ちゃんが生きられなかった分を俺が代わりに生きて、天寿を全うする。
俺がもし生き返る理由が必要なら、他に理由なんて要らないだろ?」
立ち上がって背伸びをする俺。
芹香もその場で立ち上がり、背の後ろで手を組んで頷く。
「理由なんて要らないよね。
私もケイくんの考えに賛同するし、出来る限りは手助けする。
但し、行ける世界線は選べないし、転生先で死んだらそこで終了だよ。
覚悟は出来てるようだから、最後に聞くけど………
転生先の世界線では、ケイくんがさっきまで生きていた世界線の人間は絶対に連れていけない。
ただ、もしも転生先の世界線に"物"を持っていけるなら……何を持っていきたい?」
俺は考える間も無く、正直に答えた。
「ヒアブだ。
俺が乗っていたのと、全く同じヒアブ。
誰もが乗れるほど操作は簡単じゃない。
乗りたくなくて拒んだ事もある。
だけど、高さ三メートルの操縦席が、俺の会社の……いや、"俺の居場所"だったんだ。
彼女が泊まりに来て朝作ってくれた弁当を、キャビンの中で食べた味が一生忘れられない。
仕事が初めて上手くいって、ヤードまでの帰りの運転中に飲んだ缶コーヒーの味が忘れられない。
現場に行く最中、夏の日に峠の頂上で運転席から見た美幌峠と屈斜路湖の美しい景色を、俺は二度と忘れはしない。
乗ってまだ二ヶ月程度だけど、それでもヒアブと共にした時間と苦労をもう一度得られるなら。
俺はヒアブだけでいい」
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