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車両全長十五メートル。
高さ最高三メートル。
空車重量十六トン。
フロント一軸、リア二軸の大型トラック。
荷台は通常のトラックと違い、厚さ百ミリのスウェーデン鋼で出来た箱形の架装。
運転席と架装の間に取り付けられた、人間の腕で云う肩と肘、手首が付いたクレーンの先に、人間の手のような鉤爪のアタッチメント。
それこそが、ヒアブ。
俺が誰にも譲れない、唯一無二のトラックだ。
俺の心意気に、芹香は意地悪い質問を投げ掛ける。
「もしも転生した世界線に、道路がなかったとしても?」
「道路は無くても、少なからず道はあるだろうさ。
俺はさっきの事故を教訓に、転生した後も猛吹雪が降ろうとも文句ないよ」
芹香もここで、俺に対して言い残す事は無かったようだ。
「それじゃあ、この後行った世界線でもし天寿を全うする時に、絶対に後悔することないようにね。
気をつけて………いってらっしゃい」
………姉からの最初で最後の、"いってらっしゃい"。
湖から生暖かい風がそよぎ、俺は眼を瞑る。
今、姉の姿を見たら、もう一生これから見られないとなると涙が出そうでさ。
泣いてるところを姉貴に見られながら見送られるだなんて、ダサいじゃないか。
「お姉ちゃん、いってきます」
「ありがとう。私の事、はじめてお姉ちゃんって言ってくれて………」
これが姉貴との、最後のやり取りだった。
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