異世界ヒアブ

第一話 選択

　湖の岸辺を散策していると、見慣れない花や草木が生い茂る。

　足元を掬われるほど生えている訳ではないが、どれもこれも美しい。

　そんな自然豊かな景色を堪能していると、不意に背後から誰かに肩を叩かれる。

　指で優しく、トン、トンとつつかれる感触だ。

　振り向いてみるとそこには、一人の女性の姿。

　長い黒髪は艶ややかで、滑らか。

　背丈は差程高くはないが、平均より高いほうだろう。

　華奢な体格だが、年齢的には二十歳半ばといった印象だ。

　夏の季節によく似合う麦わら帽子に、白いワンピース。

　我々の先入観でいえば、"幽霊"という出で立ちが思い浮かぶ。

　だが、そんな類いなら恐怖感や不気味といった感情が涌き出てくる筈だが、この女性からは一切感じ取れない。

　むしろ、包容感に溢れる柔和な雰囲気を纏っている。