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ガストンは老婆の言うことを一切信じない。
「婆さん、ついに痴呆でも始まったのかい?
俺は生涯独り身だ。それに今年はケイの一人しか雇ってないぞ。
俺が雇っては、皆俺がクビにする前に辞めていくからな、近頃の若ぇ奴らは根性が無ぇ。
しかしケイの奴は素直で呑み込みが早い。馬車の知識は無くても、整備の腕はセンスがある。
アイツを根気よく育てれば、きっと俺を追い抜いて立派な職人になる筈だ」
意気揚々と語るガストン。
老婆は「そういえば…」と何か思い出し、リビングの奥のキッチンから何か持ってくる。
「そうだった。あんた、アップルパイが好きだったろ?
丁度、朝に三人分差し入れようと思って焼いたところだよ。
良かったらアンタと、若い坊っちゃんと嬢ちゃんの三人で分けてやりな」
「三人分? どういう事だ?」
困惑するガストン。
アップルパイを入れたバスケット籠を渡す老婆も、それはもう柔和な微笑みを浮かべつつ首を傾げて不気味だった。
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