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 その日の夕方、青年は電車で新橋に向かった。面接が開始する二十分前に駅に着き、そこからはGoogleマップを頼りに面接会場となっているビルを目指した。  緊張しながら五階建てのビルに足を踏み入れると、受付の女性が笑顔で彼を迎えた。 「つきあたりを右に曲がって進み、奥から三番目の部屋です」  女性は彼に部屋番号が記されたカードキーを渡した。  建物の雰囲気や、女性の応対の様子から、ここがレンタル会議室だということを青年は察した。時間貸しで面接や商談などに使える会議室が存在するとは聞いていたが、利用するのは初めてだった。  鍵を開けて会議室に入ると、狭い部屋のひんやりとした空気が彼を包んだ。椅子に座り、面接官の到着を待つあいだ、これからやってくる起業コンサルタントはどんな人物なのだろうかと、想像を巡らせた。  ホームページの情報によると、今日の面接は「カリスマ起業家」と自称するコンサルタント本人が行うことになっている。その人物が本当にカリスマなのかは怪しいものだが、実際に会ってみれば偽物かどうかはわかる。青年はそう考えていた。  彼のライバルであり、大学の同級生でもある富澤隼人は、卒業してから起業家として成功し、メディアに取りあげられるようになった。学生時代の彼は他の学生となんら変わらない、普通の人間。友人たちは今でも口を揃えてこう言うが、青年に言わせれば、その見方は的を射ていなかった。
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