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プレゼンが終わると、青年はホッとした顔で額の汗をぬぐった。男は無表情のままじっと彼を見ていた。少しの間を置いて、こう訊いた。
「終わったの?」
青年は質問の意図が飲み込めなかった。時間を余らせすぎてしまっただろうかとも思ったが、そんなことはないはずだ。
「あと三十秒、あげようか?」
青年は困惑した。今のプレゼンでは不十分だということなのか。自分が考えているビジネスアイデアについても話す必要があったのかも知れない。ただ、そうなると三十秒ではおさまらない。自分自身のことをプレゼンしろと言われたのだから、間違っているわけでもないし……。
「終わりでいい?」
男がそう言うと、青年は「はい」と答えた。すると、男は席を立った。
「じゃあ、私は帰る。君ももう帰っていいよ」
青年には何が起きているのかわからなかった。三十分近く待たされたあげく、面接は三十秒で終わり? そんな馬鹿げたことがあるだろうか。しかし男は、いまにも部屋を出ていこうとしている。
「僕の何が問題だったのか、教えてもらえないでしょうか」
たまりかねず青年がこう訊くと、ドアノブに手をかけた男はピタリと動きを止めた。
「君に、起業家としての将来性があるとは思えなかった。ただそれだけだよ」
「でも……。三十秒の自己紹介だけで終わりだなんて……」
「そうだね。自己紹介だった」
男は残念そうな表情で言った。
「まるで、就職活動中の大学生みたいだった。何の変哲もなくて、つまらないプレゼン。あんなので今日の面接に合格できると思った?」
うつむいた青年に、男は畳み掛けた。
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