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「ホームページにも書いてあったと思うけど、今回の合格者は一人だけ。候補者が沢山いる中で、自分を最大限アピールする必要があるということくらい、君も理解しているよね?」
「……」
「起業した理由をさっき言っていたけど、多分あれはタテマエだよね? 社会を変えたいとか、どうとかってやつ。そうじゃなくて、私は君のホンネを聞きたかったんだ。リクルートスーツを着た学生みたいに、タテマエのオンパレードの自己紹介を聞かされるのは時間の無駄だよ。そんなプレゼンじゃ、何も刺さらないし、印象に残らない。悪いけど、君は起業するより、サラリーマンをやっていた方がいいんじゃないか」
「申し訳ありません……」
青年は唇を噛んだ。さっきまで寡黙だった男がいきなりしゃべり始めたので、何も言い返せなかった。頭の中が混乱して、謝罪までしてしまったが、そうする必要があったのかさえ判断できない。
「本当は、心の奥底に燃えるようなものがあるんじゃないか? 安定したサラリーマン生活を捨ててまで、起業を選んだんだろ? 私が聞きたいのは情熱、つまりパッションだ。世の中を良くしたいとか、世界を平和にしたいとか、青臭いことを聞きたいわけじゃない。手っ取り早く言うなら、起業で成功して、てめえが手に入れたいものは何かってことだよ」
そこまで言うと、男は満足したような顔で「じゃあね」と言って足早に部屋を出て行った。
会議室に一人取り残された青年は、意外にも冷静だった。男に突き放されて動揺したものの、ほんの僅かだが、まだ希望は残っているような気がした。すぐに部屋を出て男を追いかけた。
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