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 彼は力無くつぶやいた。テレビに出ている若手実業家は、爽やかな笑顔とともに女性アナウンサーのインタビューに答えている。彼と青年は、大学時代の同級生だった。二人は、在学中に一人の女性を巡って争ったライバルでもあった。  もっとも、青年が女性に片思いを始めた時期には、実業家とその女性は付き合っていたので(青年はあとからその事実を知った)、厳密には争いと呼べるようなものは何も起こっていなかった。それでも、彼の心には今も、嫉妬の炎が渦巻いていた。起業家になろうと考えたのも、「ライバル」の成功がきっかけだった。  青年は元々、会社員だった。大学を卒業してすぐに中堅の住宅リフォーム会社に就職し、勤務態度が真面目な営業マンとして、五年間つとめあげた。  会社を辞めて、起業家としての人生をスタートさせたのが二年前。彼なりに奮闘してきたのだが、この挑戦は成功したとは言い難かった。  彼が最初に立ち上げた、ネット上で中古品の売買を行えるサービスは、わずか半年で破綻した。  そもそも、同じことをやっている大手が何年も前から存在していたので、今さら新規のウェブサービスを作る理由を、彼の周りの人間は誰も理解できなかった。もしかしたら、彼自身も理解していなかったかもしれない。  完全に後発のビジネスであり、巻き返せるほどの資金力があるわけでもなく、ユーザーを惹きつけるような付加価値があるわけでもなかった。これで勝算があると考える方が、無理があった。  結局、利用者がほとんどいないまま、そのサービスはひっそりと終了することになった。世間は、開始したことにも終了したことにも気づいていなかった。
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