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 それでも彼は、へこたれなかった。  次に挑戦したのは、高級自転車に特化したリサイクルショップ。同年代の起業家志望の友人と一緒に、東京の下町で店をオープンさせた。  リサイクルショップは世の中に数多くあるが、彼らの店は外国製の高級自転車が専門で、競合は少なかった。  今度はいける、と青年は成功を信じた。しかし、ふたを開けてみれば、売上はサッパリ。このビジネスに対する世間の需要は予想していたほどではないという事実が、突きつけられた。  「これじゃあ、文字通り自転車操業だね」という冗談を友人と言っているうちはよかったが、赤字は雪だるま式に拡大し、早々に撤退しなければならなかった。  懲りない青年は、それでもあきらめなかった。まだ自分はできるはずだし、野球で言えば逆転サヨナラ満塁ホームランを打って、起業家として時代の寵児になる。そんな青写真を思い描いていた。  人間はピンチで追い詰められたときに、その真価を問われる。そこであきらめるか、前に進み続けるかで、人間としての本当の価値を見いだすのだ。彼が以前熱心に通っていた「起業セミナー」の講師が言っていたセリフの受け売りだが、彼はこの考えを支持していた。今となっては、すがっていると言うべきかもしれないが。  彼のこれまでの二回の起業の失敗は、いずれもビジネスの方向性に問題があった。  実態はどうであれ、少なくとも青年はそう分析していた。だからこそ、次のビジネスでは、簡単に儲けられて、売り上げが確実に伸びるものをやりたいと彼は考えていた。
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