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「何か策があるのですか」
「無いこともない。まあ、どちらも大人同士だから、こういうときの解決法というのは一つになる。金だよ」
「冗談じゃないです。買い戻しは絶対にさせません。僕は徹底的に戦います。システムエンジニアを裁判で訴えて、僕を敵に回したことを、一生後悔させてやりますよ」
「彼を訴える、か。残念ながら、それは不可能だ」
「どうしてです?」
「もう死んでいるからだよ」
「死んでいる……?」
「そう、自殺でね」
二人の間に沈黙が広がった。
「今回の件は、彼の死とも密接に関わっている」とコンサルタントが言った。
「彼が死んだとき、残されたものが二つあった。一つは彼の家族。妻と幼い子供がいた。そしてもう一つは、彼がギャンブルで作った多額の借金だ。彼は優秀なシステムエンジニアではあったのだが、ギャンブル中毒という一面も持っていてね」
「だから、自分で起業できなかったのか……」
「どうやら借金に関しては解決したようだが、妻子は今も生活に困窮している。もう察しがついていると思うが、今回の申し出は、死んだ彼ではなく、妻からだ。おそらく生前の夫から、ビジネスアイデアを売ったことを聞いていたのだろう。私は彼女と会ったが、彼女は捨て身だよ。母親というものは、我が子を守るためなら、なんだってやるからね。法に従っているかどうかなんて、構っちゃいられない」
諭すように説く男の話を、青年は黙って聞き続けた。
「ここは私に任せてくれないか。仮に彼女が会社を買い戻したとしても、うまく経営できないのは目に見えている。彼女が欲しいのは、息子を育てられるだけの金だ。金額の折り合いがつけば、会社ごと売ってくれという申し出は撤回するはずだ」
「本当ですか? でも、養育費がとても高額なものであれば……」
「任せておけ。ある程度の金額で、交渉を成立させられると思う」
結局、青年はこの件をコンサルタントに一任し、交渉の行方を見守ることにした。
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