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 ネット上では今日も、どこかの有名人が浮気して、誰かがバッシングされ、大衆は怒りをSNSに撒き散らしている。いつもと変わらない日常があるだけだった。  当然ながら、そんなものを数時間見続けていると、さすがに飽きてくる。青年はアパートの隣にある牛丼チェーンに行きたくなった。  今週から新作の定食が始まっていたはず。青年がそれをネットで調べようとしているとき、一件のネット広告が彼の目に止まった。 『絶対に成功させる起業コンサルタント』  これが広告のキャッチコピーだった。内容は起業家向けの情報商材のようだ。  大抵の人間なら無視するネット広告に違いない。しかし青年は、警戒しつつも中身が気になった。  彼が脱サラして間もない頃、この手の情報商材にうまいこと誘導され、結構な金額を注ぎ込んでしまった経験がある。しかも一度だけではなく、何度も引っかかっていた。青年にとって、ネットの情報商材は目の仇だった。  彼が購入した商材は、もっともらしい理論を並べ、「秘伝のレシピ」を読めば、誰でも簡単に起業に成功できると断言していた。  実際に買って読んでみると、そこに書いてあるのは秘伝でも何でもなかった。書店に置いてある初心者向けの起業ガイドに毛が生えただけの内容。新たな学びを得られるわけでもなければ、深い洞察を身につけられるわけでもなかった。 「とにかく実践してみる。これに尽きる」  数百ページで構成されている高額な情報商材をすべて読んでみて、作者の伝えたいことがこの一点だと理解したとき、彼は時間と金を浪費したことを悟った。
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