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「なんとかこの金額で、納得してもらうことができそうだ」  数日後、再び青年の家にやってきた男は、小さな紙を青年に手渡した。 「条件は、子供が社会に出るまでの二十年間、養育費を君が払うこと。そうすれば、会社の買い戻しは諦めるし、このことは決して口外しないとのことだ」 「二十年もですか?!」 「そう言いたくなる気持ちもわかるが、出せない額ではないだろう。それに、この交渉が成立すれば、君はもう何にも縛られることなく、経営に専念できる。考えてもみてくれ。君は、『イート・ナビ』のビジネスアイデアとシステムを、今となってはわずかな金額で買った。しかし、安すぎると思わないか? あれがなければ、このタワマンに住むことだって不可能だったはずだ」 「少し考えさせてください」  青年は部屋の窓から外を眺めた。都会の夜景は今日も美しい。この景色を誰にも奪われたくない。そう考えると、結論は一つしかなかった。 「わかりました。それでいいです」  青年の言葉に、コンサルタントは安堵の表情を浮かべた。 「ありがとう。これで、彼のご家族も喜ぶだろう。君は安心してビジネスに打ち込んでくれたまえ。君なら今の会社をもっと大きくできるはずだ。期待しているぞ」  青年が誓約書にサインすると、コンサルタントはそれを手に部屋を後にした。一人残された青年は急激な疲労感に襲われ、ソファに深く身を沈めて目を閉じた。  問題は解決したものの、釈然としない思いが残っていた。最善の判断を下したと信じてはいるが、簡単に割り切れるものではなかった。
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