1人が本棚に入れています
本棚に追加
これが成功者の宿命なのか。青年は今後も同じようなことが続くのではないかと、心配になった。やっとの思いで手に入れた地位と財産なのだ。誰にも奪われたくない。自分ひとりの力だけで掴んだのだから……。
「自分ひとりだけの力?」
無意識に口にした青年は、ハッとした。振り返ってみると、今までは何もかも上手くいきすぎていた。コンサルタントからビジネスアイデアを買い取り、事業を始めてしばらくは苦難の時期もあったが、軌道に乗ってからは驚くほどスムーズだった。気がつけば、青年は成功した起業家の仲間入りを果たしていた。
しかし、以前の自分は、裕福な実業家を夢見る、ただの元会社員に過ぎなかった。起業家として大成することを目指していたものの、人より起業の才能があるとは思えない人間だった。ここまで来る過程で、何らかの見えない力が働いていたとしても不思議ではない。
もしかしたら、自分の人生は巧妙に仕組まれた茶番であり、何者かの手のひらで踊らされているだけだったのでは? なんとも言えない不安が、青年の心を侵食し始めていた。
「考えすぎかな。疲れているのかもしれない」
彼はここ数日、眠れない日々が続き、極度の睡眠不足だった。この日、彼はいつもより早めに寝ることにした。
夜が明けると、彼の心を襲った不安はもう消えていた。彼は何事もなかったかのように、再び精力的に働きはじめた。事業拡大に向けて、躊躇している暇はない。青年はまっしぐらに突き進んでいった。
最初のコメントを投稿しよう!