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「それは何よりです。お仕事の方も、順調なのですよね」
「仕事はまあ、ぼちぼちですね」
「そうですか。ところで、今日はいい物件がありまして……」
不動産屋が熱心に物件を説明する中、男の脳裏では先ほどのビジネスアイデアがさらに具体化していた。これはいける、と男はほぼ確信した。鍵となるのは、体力があり、純粋で、素直な若い男だろう。不動産屋の説明が一通り終わると、男はこう切り出した。
「ひとつ相談なのですが、不動産屋さんというのは、毎日様々な人と会うことになりますよね」
「ええ、まあ、仕事柄いろんな人と会いますね」
「実は、起業に興味がある若い人がいたら、紹介してもらいたいんです」
「起業に? それは、どういったご事情で?」
「私の友人に、起業家の支援をしている人間がいるんです。その友人に頼まれて、人探しをしているわけです」
「なるほど。できる限りお力添えしますが、起業というのは難しいものですよね。起業家になれるほどの優秀な人物には、なかなかお目にかかれないと思いますが……」
「別に優秀でなくても構いません。根性に加えて、努力を続けられる体力があれば、大抵の問題は解決します。ただし、優れたビジネスアイデアを持っていることが重要ですがね」
「なるほど。では、もし、起業に興味がある人に会ったら、紹介しますね」
「助かります」
テレビ会議を終えると、男は満足感に浸った。すぐには見つからないかも知れないが、いずれチャンスは巡ってくるだろう。焦らずに、機が熟すのを辛抱強く待てば、やがて大輪の花が咲くはずだ。
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