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『発光期』のために、アカリは白いフレンチスリーブのワンピースを購入した。七年目の今年は、そろそろ運命の出会いを見つけてもいいころじゃないかと思うのだ。
「おっ、やる気満々だ」
「そっちこそ」
友人のリサも同じことを考えていたらしく、チューブトップにサテンのワイドパンツであでやかに装っている。軽い夕食の後、二人は滞在先のホテルを出発した。夜空は雲に覆われているが、深夜までには晴れるらしい。明かりの落ちた海辺の街は、息をひそめて静かだった。
海岸通りを抜けて白い砂浜に出ると、すでに多くの若者が集まっていた。皆、焦がれるような表情で空を見上げている。そこに強い風が吹いた。
「見て!」
誰かが叫んだ。垂れ込めていた雲が風に流され、みるみる千切れていく。その合間から光がさし込んだ。一年にたった数日だけ、魔法をもたらす特別な月。恋の月だ。
浜辺の若者たちは歓声を上げた。両腕を高く上げ、月に向かって差し伸べる。その指先が月光に触れたかと思うと、彼らの体は内側から輝きはじめた。
アカリは、タマゴ色に輝く自分の両腕をうっとりと見上げた。もう七度目になるが、発光の瞬間は感動せずにはいられない。月が完全に姿を現すころには、浜辺は色とりどりの光に輝く若者たちであふれていた。
「行くぞおっ」
一人の青年が雄叫びとともに飛び上がったかと思うと、そのまま空中をまっすぐ上昇していった。他の若者たちも一人、また一人と離昇をはじめる。
「ほら、あたしたちも!」
リサにうながされ、アカリも砂浜を蹴った。とたんに重力は消え失せて、体が滑るように飛翔する。耳もとで風がうなり、夜の空気が肺を満たした。隣を飛ぶリサはオレンジ色の光に包まれて、まるでランプの精のようだ。
ぐんぐん上昇しながら湾の上に出る。岬の灯台も今日は消灯しているらしい。黒ぐろとした水面には若者たちの輝きが反射して、夜光虫のようにきらめいて見える。
眼下の景色に気を取られていると、すぐそばを光の塊が猛烈な勢いでかすめて行った。発光期を迎えたばかりのティーンエイジャーがスピードを競っているらしい。純粋に無敵モードを楽しむ彼らの姿に数年前までの自分が重なり、アカリは苦笑した。
「危なっかしいね。早く上に行こう」
二人はさらに上空へと飛翔した。目指す先に、ルミナス・サークルがある。発光期――恋の季節を迎えた若者たちが、パートナーを求めて回遊することで空に描かれる、巨大な光の輪。
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