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彼はきょとんとした顔でわたしを見た。
「僕は天使だもの。羽があるのは当然でしょ」
「はぁ?天使ですって?」
わたしは目を丸くした。振られたことがショックすぎて、幻を見ているのだろうか。
「あ、信じてないね。ほら、こんなことができるよ」
そう言って彼は優雅に羽を動かすと、わたしの頭の上より高い位置までふわりと浮かび上がった。
まるでマジックのような光景に呆気に取られていたが、わたしははっとして周りに目をやった。
――誰もこちらを気にしていない。いや、見えていないのか?ではホンモノ?
そんな夢みたいなことを、すぐに信じられるわけがない。
顔をしかめるわたしの前に、自称・天使はすとんと降り立った。
改めて見ると、やたらときらびやかな巻き毛の男の子だ。背中の大きな翼が重たそうに見える。
「天使、ねぇ……」
わたしは溶けかかっていた残りのジェラートをぺろりとひとなめした。ひんやりとした口当たりと優しい甘さを味わっているうちに、なんだか急に、まぁいいか、という気になってきた。嘘でも本当でも夢でもなんでも楽しい気分にさせてくれるのなら、この際だ。歓迎しよう。
気を取り直したわたしは男の子に訊ねた。
「それじゃ、天使さん。どうしてこんなところにいるのか聞いてもいい?」
「空の上をぶらぶらしていたら、灯りがきらきらキレイだったから降りてきてみたんだよ。そしたら美味しそうなものを持った人、つまり君を見つけたから。一口頂こうかな、と」
天使はへへっと笑った。
「天使にも食いしん坊な子がいるんだね」
無邪気な笑顔につられてわたしも笑った。
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