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「で、どうして泣いてたの?」
「え、それ聞く?まさか見てたの?」
わたしは笑顔を引きつらせた。
「言いたくないなら聞かないけど」
わたしはふうっとため息をついた。
「振られちゃったのよ、恋人に」
「へぇ、それは残念だったね」
「ずいぶん軽く言ってくれるわね」
わたしはムッとして天使をにらんだ。
けれど彼は全く気にしていない。
「だってそれは、別の出会いが待っている、ってことだもの」
「……そうなの?」
「そうだよ。これ、天使界の常識ね」
天使は腰に手を当てて、得意げな顔をしている。
「天使界の常識、ねぇ……」
そんな常識なんか知らないが、彼の様子が微笑ましくて、わたしの口からは笑い声がこぼれた。
「あ、そろそろ戻らないと怒られちゃう」
急に天使はそわそわと落ち着かない様子となって、天を仰いだ。
「誰に怒られるの?」
「僕より偉い人に」
彼は閉じていた翼を広げた。
「戻るよ。その食べ物、おいしかったよ。ありがとう」
「どういたしまして。あなたのおかげで少し元気になれたわ。わたしこそ、ありがとう」
「あ、そうだ。もしも気が向いたらさ、大きな白いクリスマスツリーを探してみてよね」
そう言い残して、天使はふわっと浮かび上がる。
「大きな白いクリスマスツリー?すっごくざっくりした言い方ねぇ」
枝の間を上へ上へと昇って行くその姿が見えなくなるまで、わたしはその場に突っ立って空を見上げていた。
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