第4章:躾

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『第1話:重なる影の奥(2)』 腕と左足を拘束され、右足だけで支える体を酷使しながら快楽に耐える姿をどう思うのか。外側に発散できない快楽が内側に溢れて、それでも与えられない絶対的な快感の刺激に、乃亜は悶え狂っていく。 「ァ…ぁぅ…あぁ…~っ」 自分の胸に圧迫された肺が苦しい。耐えるのに十分なだけの酸素が足りない。 縛られた手も足も自由を求めて暴れるほど食い込み、じんじんとした痺れのような熱を持っている。いっそ崩れ落ちてしまえたらラクなのかもしれない。高鳴るままに果ててしまえたら、与えられるもどかしささえ、愛しい感覚に変わるかもしれない。 それでも出来ない。 斎磨がそれをさせてくれない。 「俺の質問には、はいかいいえで答えろ」 「っ…はっはい」 「やればできるじゃないか」 朦朧としかけていた頭が覚醒したのも無理はない。圧迫するほど埋まっていた指が引き抜かれ、いつの間にめくられたのか、むき出しになった乃亜の尻は斎磨の手の形を残していた。 「世から消えることを望まれるほど元から残虐な性質を持っている俺たちに、不死の肉体を与えるなんて悪いことだとは思わなかったのか?」 「え…っ…な…なにッぁ…ヤァッ」 「はい、か、いいえ、で答えろ」 「ヒッぅ…ぃ…い…いいえ」 甘い刺激に溶かされていた感覚が、叩かれることで違う感覚を植え付けてくる。 縛られ、叩かれ、耐えるはずの神経が震えるほどに興奮していく。 「萌樹にここを触らせたか?」 「っ…ぁ…はっはい」 「三織にも触らせたか?」 「ぁッ…は…ぃ」 視界に映るのは壁に反射した黒い影だけ。斎磨を象った影は、か細く息を荒げる乃亜を支配するように同じ場所に重なっている。 「俺に叩かれて喜んでいるのか?」 「ふぁッ…ァ…はい…ッ違うっ」 「悪い子だ」 「はいッ…ぁ…ヤッ」 「悪い子には本来、俺の奴隷である焼き印を押すんだがな」 「だめッ…は…い…ぁ…ッ」 「今日は特別に俺自身の印をやろう」 右足に全神経を集中させて、ずり落ちてしまわないことだけを考えていた自分を呪いたい。 耳をかすめていた音に、斎磨がどう行動するかわかっていたはずなのに、防ぐこともせずに淫らな形でじっとしていた理由を考えたくない。知りたくない。彼らのいう加虐性愛者の餌食になることを悦んでいる自分がいることを認めたくない。 「ヒッ…っ…ぅ…ァアァ…ぁ」 それでもこれは、感じるかどうかという問題ではない。欲しかったものが与えらる喜びに全身の痙攣が収まらない。 「あぁァっ…さぃ…ま…ッァ…はぁ」 「刺すぞ」 「ッ!?」 声すらままならない絶頂をどう伝えればいいのか、痙攣する内部に埋まりきった斎磨の方が良く分かっているに違いない。苦しいほど膨張した張型を奥までねじ込まれ、同時に背中に通じる首筋に牙を差し込まれる感覚。ぶつりと張りつめた肌に食い込んだ牙は、熱を吸い上げるように全身の神経を泡立たせる。 自分でもわかるほど高く果てた快感が、最高だと斎磨に告げている。 「乃亜の血はうまいな」 痛みと痺れの二重奏は、快楽を伴って乃亜の全身を犯していた。 「どうした。俺が許す、もっと声を出せ」 わかっていて煽る声の響きに、斎磨を感じる筋肉が収縮を繰り返す。 喘ぐことしか出来ない。 求めることも逃げることも許されない体は、与えられるものだけを貪欲に感じて乱れていく。 「ぁッメッ~~っイクッっあぁヤッ」 乃亜の体重を支えるように体勢を変えた斎磨の顔がなぜか上に見える。 「いやぁ…ッ…あぁああぁっ」 うつ伏せから仰向けに変わった体が、酸素の供給を始めたせいで、戻ってきた感覚が鋭利な刺激を与えてくる。 「俺を煽る声、瞳、くわえて死なない身体。最高の女を見つけたと思ったら、独占出来ないのは納得がいかない」 「ッ…斎磨ぁ…っ…さぃ…ぁ」 「これが永遠だろう?」 何度も腰を揺り動かしながら覗き込んでくる瞳に侵食される。血に染まるほど赤い瞳。褐色の肌、黒い髪。なぜこんな場所で、服を着たまま犯される羽目になったのだろう。 どうして犯されているのに、満たされるほどの気持ちに喘いでいるのか、悶えているのか。わからないから混乱していく。 「も、やっッィ…ひっ…アッ、イヤァッ」 「冗談じゃない」 「っん…ぁ~~…イッ、ぅ…んッンンン」 苛立ちの感情をぶつけるように斎磨の腰に力がこもる。 机の脚が悲鳴をあげて軋みを上げるほど、ランプが倒れ、影が大きく交わりを深めるほど、その刺激は乃亜の内部をえぐり、与えられるだけの快楽を打ち付けてくる。 「ぁ…ッ…ふァ…~~~ッ」 ついに、口付けを落とすと共に内部に放たれた白濁の液体は、乃亜の意識までも白濁に染めていく。引き抜かれ、支えを失った体は机からずり落ち、体からその証拠を垂れ流しても乃亜の痙攣は止まらなかった。 スカートの内側に秘められた行為。 まだ余韻が体を支配するのか、斎磨に拘束を解かれているときも乃亜は赤い顔で瞳を潤ませていた。 「お前は俺のものだ」 「っ…ぁ…はい」 今度は甘く唇に触れ、キスを贈った斎磨の腕に抱きあげられる。 素直にその腕の中に納まった乃亜は、書斎を出て、どこに運ばれるのだろうかと考えることを放棄した顔で斎磨をじっと見つめ続けていた。 「まあいい」 乃亜の視線に耐えかねたのか、斎磨はわざとらしく息を落として困ったように微笑んだ。 「お前の働きに免じて、あいつらと顔を合わせてやる」 どうやら乃亜のお願いは叶うらしい。 随分と気が遠くなるほどの長い時間を過ごしたが、これでようやく食事という死活問題が解決できるのだと、乃亜は部屋に運ぶ斎磨の腕の中で瞳を閉じた。
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