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 彼がこの世からいなくなった、ということを、私は彼の両親から聞いた。彼は、部屋の中で倒れていたそうだ。何かの発作だったのか、事件性はなさそうだけれど、原因もはっきりとは分からないらしい。何か知らないか、と聞かれたけれど、私には何も分からなかった。彼が怯えていたことは知っているけれど、そのことを人に話す気はなかった。  彼の両親と別れ、家に帰り、私は仏壇の妹の写真を見て、これでよかったんだよね、とつぶやく。彼が怯えていたのは、私の妹だ。確かに妹にも性格には少し問題があったかもしれない。けれど、それでも私の大切な、かわいい妹だった。その妹が、この世からいなくなってしまったのだ。彼のせいで。  だから私は彼のことを調べ、探し、ようやく見つけ、そして彼に近づいたのだ。彼を幸せな気持ちにさせて、そこから苦しませる。妹のアドレスでメールを送ったのも、妹のふりをして彼の側に表れたのも、私だ。彼が歩いている側に植木鉢を落としたこともある。彼が苦しむように、そして妹とのことを思い出すように、すべて私が仕組んだのだ。    けれど、命まで奪うつもりはなかった。だから彼が発作で倒れるほど苦しんでいたとは思わなかった。そこまで苦しめることができたのはよかったけれど、こんな結末は想像していなかった。もちろん彼がそうなったことに反省も後悔もないけれど。と、その時。  ありがとう、と妹の声が聞こえた、気がした。そして私は気付いたのだ。あぁ、きっと妹が、彼を連れていたのだと。
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