嫉妬

32/36

18人が本棚に入れています
本棚に追加
/91ページ
 しどろもどろになるラープサーに助け船を出すマイヤーだったが、ケンプが確かに殿下はベリエスを気に入っているようだと腕を組んだため、青灰色の瞳に剣呑な色を浮かべて彼を見る。 「違うのか?」 「確かにお気に入りですけどね。気に入られるベリエスが気の毒でしょう」  あんな我が儘でどうしようもない殿下という身分の人に好かれても迷惑なだけだと、どこまでが本音か分からないことをさらりと言い放つマイヤーに他の三人が何も言えずに口を閉ざす。 「まあ当分は来ないでしょうが、次に来ることがあればまたよろしく頼みます、ベリエス」  マイヤーの頼みは以前と同じ重さで心に染みこみ、当然のように頷いて葡萄酒を飲んだアドラーは、向かいに座るラープサーの様子をそれとなく窺うが、表情にも気配にも特に嫉妬や嫌悪感などは出ておらず、胸の奥で密かに安堵する。 「今回は本当にベリエスが頑張ってくれたから殿下も喜んで帰国しました」  ありがとうございますといくつもの思いを込めて感謝の言葉を告げたマイヤーは、アドラーが素っ気なく頷いたことに笑みを深め、今度はラープサーを見てその笑みの質を変える。 「ああ、そういえば、今度はカールに会いたいと言ってましたよ」 「!?」 「カールに会ってどうするんだ?」  この三人の中では表面上の理由しか知らないケンプが素っ頓狂な声を発し、アドラーも少し遅れて同意を示すと、マイヤーがにやりとたちの悪い笑みを浮かべる。 「さあ、殿下も物好きですからねぇ」  きっとカールから何かを聞きたいのでしょうと笑うマイヤーにラープサーはああともうんとも言えず、ただ助けを求めるようにアドラーを見れば、自力で何とかしろと言い放たれてしまう。
/91ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加