嫉妬

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「……助けてくれても良いじゃないか」 「殿下から大陸の南を旅した男の話を聞いたが、その男が本を書いたそうだ。それを手に入れてくれるのなら助けてやってもいい」 「ベリエス、その交換条件は厳しいんじゃねぇか?」  それこそ殿下のお気に入りのお前が直接殿下に頼めば良いだろうと今度はケンプがラープサーに助け船を出すが、たやすいものだろうと言い放たれてしまえば努力するしかなく、己の決意が揺らがぬように葡萄酒を飲み干したラープサーは、鱈の切り身にフォークを突き立てて拳を握る。 「何とか、する!」 「頑張れ」  心の底からそうは思っていない声音で応援されて肩を落とすラープサーだったが、その時、酒屋の主人がケンプの耳に何事かを囁きかけ、一瞬で顔色が変化する。 「フォルト?」 「……うちの誰かがそこでケンカをしてるそうだ。事情を聞いてくるからお前は先に帰っていろ、ベリエス」 「良いのか?」 「ああ。俺が出て行けば誰も文句を言わないだろうからな」  まったく、今日の仕事はもう終わったのだから超過勤務をさせるなとぼやきながら席を立ったケンプは、ベリエスの肩を叩いて安心させると残りの二人にも肩を竦めて店を出て行く。  その背中を見送った三人だったが誰からともなく口を閉ざしてしまい、酒場の賑やかな喧噪が三人の間を流れていく。 「……殿下の相手、本当にご苦労さま、ベリエス」 「ああ……お前も大変だな」
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