嫉妬

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 それを脳裏に浮かべつつ伏し目がちに笑ったラープサーにマイヤーが何かを言いたげに口を開くもののそのまま葡萄酒を飲む。 「……雨降って地固まる、はあまり好きではないんですけどね」 「え?」 「雨を降らせたのが殿下で固めたのはお前だろう、ハンス」  マイヤーが感慨深げに呟く声にラープサーが目を丸めアドラーが呆れた様な声で指摘すると、マイヤーの顔に人を食ったような不敵な笑みが浮かび上がる。 「いや、楽しいですね」 「いやいや、楽しくなどないよ、うん。ハンス、全然楽しくなんてないから、もう止めて欲しいな」 「カールの言うとおりだ」  頼むから人の恋仲を深める為に波風をわざわざ立てないでくれと二人が声を揃えて反論すると、さも楽しそうにマイヤーが目を細めて何度も頷く。 「また近々殿下に来てもらいましょうか」 「……カール、帰るぞ」 「え? いや、でも、まだ料理が……」 「家に帰って作ってやる」  だから今すぐ帰るぞと脅されて恋人と友人の顔を交互に見つめたラープサーは、食事と友人と別れるのはさみしいが恋人が怖いから帰ると苦笑しつつ立ち上がる。 「お疲れ様、お休みなさい、ベリエス、カール」 「ああ。……今回は世話になった。ありがとう、ハンス」  帰ると言い放ったもののこの友人との時間はアドラーにとっても掛け替えのないものだと分かっている為、赤毛の友の肩を抱くと同じように肩を抱いて背中を撫でられる。
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