To a world yet to be discovered./まだ見ぬ世界

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 己は地質学者であり地形の専門家ではあるが行ったことのない村のどこに宿があるのかなど分かるわけがない上にそこに案内しろ、どうせならば女がいる宿にしろと命じられても出来るかと、温厚な男にしては珍しく頭から湯気を立てかねない程の怒りを胸に足音高く自室に戻ってくるが、胸の怒りが指先にまで浸透していたためにドアを勢い良く開けてその勢いのまま閉じてしまう。  今まで暖炉の炎が小さく爆ぜる音と資料の整理に本棚の前を行きかう足音だけが響く室内に突如大きな音が響き、手にしていた羊皮紙の束を思わず取り落としたエリックは、入ってきたのがこの部屋の主であるラープサーだと気づき、なんだ、博士ですかと安堵の息を零しつつ足元に落ちた羊皮紙を手に取るが、いつもならば聞こえてくる穏やかだったり困惑しているような声が聞こえてこないことに気付いて顔を上げ、拾い上げたばかりの束を再度落としてしまう。 「……あ、ぼ、く、隣の部屋で資料整理、していますっ!」  一瞬で顔面蒼白になったエリックが逃げるように隣室のドアを開けてそこに逃げ込むように姿を隠すが、その様もただ苛立ちを助長させるもので、やるせない息を吐いたラープサーの耳に珍しいなという呆れとも感心ともつかない声が投げかけられ、今ならば親衛隊の小隊長にも勝てるのではと夢想してしまいたくなる強い眼光で声の主を睨みつけてしまう。 「……え……アマ……?」  
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