17人が本棚に入れています
本棚に追加
ラープサーが睨みつけた先では端正な顔に微苦笑を浮かべたアドラーがいて、今頃親衛隊の職務に精を出しているはずの己の恋人がここにいる不思議に鳩が豆鉄砲を食ったような顔になってしまう。
「お前が出ているとエリックに聞いて待たせてもらっていた」
主の留守に勝手に待っていたと肩を竦めたアドラーだったが、己の恋人の様子から冗談が通じるような状態ではないことを素早く見抜き、カウチから立ち上がって呆然とするラープサーの前に向かう。
「エリックが怯えていたぞ」
「あ……や、その……」
部屋に入るまでの怒りと入った後の驚愕が胸の中で混ざり合ってその行き先を見失わせてしまったようだったが、それを顔に如実に表してしまったラープサーにアドラーが金目と呼ばれる琥珀色の双眸を細めた後、握りしめられている拳をそっと手に取り力を抜けと伝えるように撫でる。
「お前があんな態度を取るなんて珍しいな」
アドラーの声は珍しいものを見た驚きに満ちていたが、それすらも今のラープサーの心を逆撫でするようなものに感じ、どれほど己の心が平静でないのかを自覚した時、見上げる高さにある端正な顔に己だけが見ることを許されている優しい表情が浮かんでいる事に気づき、呼吸を止めてしまいそうになる。
「それだけ理不尽な事を言われたということか。よく我慢したな……カレル」
最初のコメントを投稿しよう!