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傷心のお前を慰めるのに笑う必要はないとラープサーの上目遣いの言葉に一瞬で表情を切り替えたアドラーは、ラープサーの少し力の抜けた拳を手に取ってもう一度撫でつつ誰に何を言われたのかを問いかけ、やや躊躇った後にラープサーがつい先ほどまで会談していた相手の名を告げると、少しだけ考え込むように視線を落とす。
「……理解がないのは仕方がないんだろうけど、行ったことも地図を見たこともない村の案内をしろと言われても困る」
己は口から口へと伝えられたり羊皮紙に残される神々とは違って、自分の身の回りの世話もロクにできない男なのだと自嘲交じりに呟くラープサーの口を封じるように立てた人差し指を押し当てたアドラーは、菫色の目を丸くする恋人とは対照的に目を細め、その通りだと同意をするが身の回りの世話ができないのなら人を使えばいい、適材適所だと続けると一度瞬きをした後にようやくいつものラープサーに戻ったことを教えるような柔和な笑みを浮かべて手を取られる。
「それはきみだから言えることだ」
「そうか?」
「うん、そうだな……ああ、どこか遠い国に行きたいな」
大きく無骨などこからどう見ても男の手だと分かる手をひっくり返して掌同士を重ね合わせたラープサーが歌うように呟くと、重ねられている手に力が入り指がゆっくりと折られた後、どこにも行くなと言うように握りしめられる。
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