To a world yet to be discovered./まだ見ぬ世界

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 不思議そうに返されて短く息を吞んだラープサーは、端正な顔を良く見ようと少しだけ距離を取って願い通りにすると、厳しい現実を見つめ続けてきた結果の言葉を口にするが、それでも労りの気持ちを持っている美丈夫の唇を封じるように人差し指を宛がい片目を閉じる。  何をばかなことをと笑われてしまうかもしれなかったが、この恋人の前では出会った時から恥ずかしい所を幾度も見せつけていたし、付き合いが始まってからも何度も何度も見せてきたのだ、そこに今からまた一つ恥ずかしいと思うかもしれない事象が加わることぐらいどうということはないと、ラープサーを知る友人たちから言わせれば、土壇場で開き直る悪い癖を発揮するように口の端を持ち上げる。 「まだ見たことが無い景色を、お前と一緒に見たい」  生まれてからこの国を出たことがない己だが、可能なら大陸に渡ってこの国とは全く違う空気を、景色を、そしてそこで日々生きている人々の暮らしをこの目で見て耳で聞き心で感じ取りたいと伝えると、琥珀色の目が一瞬見開かれた後、好意的に細められて瞼の下に姿を隠す。  閉ざされた瞼に何度かキスをしているとさっきとは少し違う笑みが唇に浮かび、何か楽しいことを思い浮かべているのだと教えてくれるように肩が揺らされる。 「アマ?」 「……いつか行くぞ」
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