16人が本棚に入れています
本棚に追加
お前が言うまだ見ぬ世界へいつか二人で行こうと、この部屋に戻って来てからもなかなか消えなかった怒りが一瞬で昇華してしまうような柔らかな声と表情に誘われたが、その顔を永遠に目に焼き付けておきたいと考えていたラープサーはすぐに返事をすることができなかった。
「行かないのか?」
「い、いや、行く、行くに決まってるだろう?」
私と違って国内外の主要な町に出向いたことのある副長殿、どうか案内をしていただけませんかと少しおどけた様に端正な顔を見ると、褒美に蜂蜜酒を飲ませてくれるのならと同じくおどけた声が返ってくる。
「……もう気持ちは落ち着いたか?」
「あ……」
アドラーの言葉にラープサーが言葉をなくすが恋人なりの慰めだと気付いて一つ頷くと、アドラーに甘えるように寄りかかり、反対側の肩を抱かれてそっと目を閉じる。
「後でエリックに謝っておけよ」
「……怖い思いをさせてしまったなぁ」
「ああ」
さっきのお前はあの瞬間だけを見た人がいれば間違いなく恐ろしい人だと思っただろうと笑われ、笑わないでくれと拗ねたように声を上げるが、仕事を手伝うだけではなく何くれとなく動いてくれる少年への詫びだけはしなければと続けると背中を押すような優しいキスが見えない世界でこめかみに降ってくる。
最初のコメントを投稿しよう!