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その優しさにもう少しだけ甘えていようと更に寄りかかるとラープサーの気持ちが伝わったのか、しっかりと抱き寄せられて無意識に安堵の息をこぼしてしまうのだった。
アドラーによってささくれ立った心が鎮められた日から数日後、先日と同じように不意にラープサーの執務室を訪れたアドラーは、照れたような顔で出迎えてくれた部屋の主にエリックに食べさせてやってくれと告げると、手にしていた袋を差し出す。
それを受け取りながら何だと首を傾げるラープサーにアドラーが己の姪が焼いたドライフルーツを使ったパイだ、お茶の時間に二人で一緒に食べろと告げ、廊下の向こうにいるらしい友人に呼ばれているからと手を挙げて立ち去ってしまう。
返事をする事も出来ずにただアドラーの背中を見送ったラープサーは、室内で羊皮紙を本棚に並べていたエリックにどうしたと問われて微苦笑し、ドアを閉めた後にそれがひと段落付いたらお茶にしよう、マグダレーナ様がパイを焼いてくれたそうだと告げると、エリックが跨がっていた脚立から転げ落ちそうになる。
慌ててその身体を支えたラープサーは、このパイが先日のエリックに対する詫びだと気付き、心の中で己の恋人とその姪である女性に礼を言い、先日体験した恐怖などすっかり忘れ去った顔でお茶の用意を始めるエリックに安堵の息を吐くのだった。
春まだ遠いフレゼリシアの空、冬にしては珍しく青い空が広がっているのだった。
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