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因果応報
「ねぇ、実桜。これってどういうことかな?」
ある夜、一誠は私に妙な動画を見せてきた。そこに映っていたのは私で、最近よく会う男との逢瀬の時間を撮ったものだった。
「隠し撮りでもしたの? それとも興信所使った?」
「そんなことどうでもいいよ。これは真実なの? それともデタラメ?」
動画に映っているのはどう見ても私だ。ごまかしようがない。
「真実よ。私はこの男と浮気してる」
さらりと告げると、一誠は信じられないといった様子で顔を左右に振る。
「この男に脅されて関係をもってるの? そうだよね?」
「誘われたけど、脅されているわけじゃないわ」
「この男が好きなの? 僕の愛を裏切るの?」
「裏切り……そうかもしれないわね」
かつて私も、浮気した一誠に同じことを言ったっけ。
「僕はこんなにも実桜を愛して、尽くしているのに。なぜ、なぜだよぉ!!」
私の肩を掴んだ一誠は、強い力で前後に揺さぶる。私の肩に食い込んだ彼の爪が痛い。きっと血が滲んでる。どれだけ痛くても、彼の手を振り払う資格は私にはない。
「私はあなたを裏切ったわ……」
「そんなの許さない!!」
夫は私の体を、思いっきり突き飛ばした。汚いものを投げ捨てるかのように。
ゴンッ!!
鈍い音と共に、頭の後ろに鋭い痛みが走る。
テーブルの角に頭をぶつけたようだ。大理石で作られたものだから、とても硬い。頭から血がどくどくと流れているのがわかる。あっという間に痛みは頭全体に広がり、手足を動かすこともできなくなっていく。
「実桜! しっかりして!」
夫は私を抱きあげると、泣きながら私の顔をのぞきこむ。
「僕の愛を裏切った実桜が許せなかっただけなのに……」
よくわかるわ……。
私もかつて、夫の浮気が許せなくて、あなたを突き飛ばしたんだもの。
そして私も、一誠と同じ過ちを犯してしまった。許されないとわかっていたのに、自分の衝動を抑えられなかった。
きっと因果応報というものね。
記憶を失った一誠を私好みに改造して、従順な男に仕立てたのだから。
「ごめんなさい、あなた……」
私を許してだなんて、とても言えない。
私を殺した夫が警察に捕まっても、私だけはあなたのことを地獄で待っているわ。共に地獄の果てまで歩いていきましょう。
泣きじゃくる夫の頬に手を置きながら、私の意識はゆっくりと消えていった。
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