試食会

10/14
前へ
/191ページ
次へ
 正直、胃袋はかなりきつい。  かといって、ここで断るはずもない。  僕には、なんとしてでもすべてを平らげる自信があった。  いや、自信……とは少し違う。  切望、だ。  彼女のすべてを僕のものにしたい、という切なる願い。 「はい! 全然、大丈夫です!」  スピーカーの向こうで、教授がクスリと笑った。 『最後の料理は、【クロマグロのすり身入りクラムチャウダー】だよ』  マグロ。  マグロ……。  マグロ、マグロ、マグロ……。  魚、か。  せめて最後くらいは、肉料理であってほしかった。  こんなことなら、ギブアップしておけば……と後悔しても遅い。  重いため息をついていると、園田さんが最後の料理を運んできた。  その姿を見た時、口から心臓が飛び出しそうになった。  彼女がしていたのは……眼帯だった。  最後の料理は、魚料理だったはずだ。  それなのに、どうして?  疑問と期待で、胸がふくらんでいく。  彼女がスープの入ったカップを僕の前に置くと同時に、教授の声がした。 『言い忘れていたが、クロマグロのすり身といっても、今回は特別でね』  聞く前から、僕の胸は高鳴っている。  クラムチャウダーに入っているすり身には、マグロの目玉も一緒にすり潰されている、と教授が続けた。  クラムチャウダー特有の、いい香りが漂っている。  彼女の眼帯よりも、僕は目の前のスープから目が離せなかった。
/191ページ

最初のコメントを投稿しよう!

70人が本棚に入れています
本棚に追加