試食会

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 開く気配は、まだない。  大丈夫……なんだろうか?  今頃になって、彼女が心配になってきた。  と、その時、ドアが開いた。  現れたのは、グレーのシャツに黒いエプロン姿の嘉庭教授だった。  手にしたトレイに、飲み物を乗せている。  僕は慌てて立ち上がった。 「教授、今日は……ありがとうございました! あ、いや、ごちそうさまでした!」  目の前の教授に、緊張が一気に押し寄せてきた。 「こちらこそ。座ったままで構わないよ」  教授は、僕の前にカップのセットを置いた。  袖をまくっている腕には、たくましい筋肉がついている。  細身に見えていたけれど、実は筋肉質なのかもしれない。  教授が手にしたティーポットには、茶葉が沈んでいる。  紅茶、だろうか?  湯気を立てた薄黄色の液体がカップに注がれると、嗅ぎ慣れた香りが漂ってきた。  爽やかな……ほんのりと甘い香り。  彼女の香りだ。 「コーヒーが苦手だと聞いたからね。【ハーブティー】にしてみたんだ」 「す、すみません。ありがとうございます」  このいい香りは、カモミールらしい。 「さぁ、どうぞ」  教授が角隣に腰を下ろした。  手にしたカップを口に運ぶと、彼女の香りが僕の身体に染みわたっていく。  デザートで消え失せてしまった、彼女との思い出。  カモミールの香りは、一瞬でそれをよみがえらせてくれた。
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