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炙り焼きの肉寿司に、肉団子と根菜のお吸い物。
焼き物も柚庵焼き、味噌焼き、照り焼き、黄金焼き、鍬焼きと、それぞれ焼き方を変えたものが一口分ずつ、細長い皿に並べられていた。
ほかにもネギ塩だれのもつ焼きや、筑前煮、ナスのはさみ揚げなど、ほとんどの料理に肉が使われている。
鍋は、すき焼きだった。
見た目は会席料理のように美しい。
この店の料理人は、腕も確かだ。
繊細で美しい盛り付け、丁寧な下ごしらえ、上品な味付け。
そして、やわらかい肉。
「美味しい!」
美波は満足そうに肉を頬張っている。
いくら肉のランクが違っていても、料理の見た目は同じだ。
だが、その味は……。
想像もしたくない。
六年前のあの日、選択を間違えていたら、僕は美波に食べられていただろう。
真っ赤な唇の奥へ運ばれていく、肉の欠片として……。
こうしてXランクの肉を美味しそうに頬張る美波を目にするたび、いやでも思い出してしまう。
「うん、美味しいよね」
僕も目の前にある肉を頬張った。
さすがAランクの味だ。
とても美味しい。
僕は今でも忘れていない。
あの日、食べた園田さんの味を……。
彼女の味は、このAランクをはるかに越えた、特級だった。
恐怖に包まれた思い出を、カモミールの香りの思い出に塗り替えながら、僕は食事していた。
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