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「今日も美味しかった」
美波は満足そうに、デザートに手を伸ばした。
僕は何度も牧場に行っているが、美波が好むXランクの飼育方法は見ていない。
興味もないからだ。
肉としての飼育方法よりも、僕には大事なことがあった。
「お父さんに、お土産でも買っていこうかな」
美波が言った。
ファザコンとまではいかないが、美波は義父のことが大好きだ。
滝城家にとって一人っ子で、しかも娘。
義父は、跡継ぎになる男の子が欲しかっただろう。
それを美波が察しているのかどうかは分からない。
だが、義母よりも義父を気に掛けているのは確かだ。
美波は、自分の存在を認めてもらいたがっているように思えた。
僕と結婚したあとは、なんでも義父の言いなりだ。
腹では何を思っているかも分からない。
義父に対する愚痴も聞いたことがなかった。
今でも毎日、義父に買ってもらった香水を付けているのは、そのせいなのかもしれない。
もしかしたら、六年前のディナーパーティーで、僕との結婚を選択肢に入れてきたのも……。
「そうだね。お義父さん、肉が好きだから」
夕食のあと、義父はワインの肴に、よくビーフジャーキーをつまんでいた。
「これなんてワインに合いそうで、いいんじゃないかな」
「うん、そうする!」
和紙のメニュー表にある一品料理を指差すと、美波が賛成した。
呼び出し用のベルを押すと、すぐに店員がやって来た。
「失礼いたします」
「すみません。持ち帰りで、Aランクのタンジャーキーをお願いします」
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