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数日後。
いつもと変わらない、家族全員が揃った朝食風景。
「お義父さん、今日は……」
言い掛けて、僕は義父の隣にいる義母へチラリと目をやった。
「……すみません。仕事の話なので、車の中で話します」
「うむ。そうしてくれ」
義父は、ナイフでカットしたステーキを口に運んだ。
危ないところだった。
この家で、牧場の話はタブーだ。
美波は別として、義母は牧場の件を知らない。
滝城家でこちら側、つまり牧場の存在を知っているのは、僕と美波、そして義父の三人だけだ。
唯一、普通なのは義母だけだった。
◆
「お義父さん、牧場の件ですが、今日行ってくる予定です」
「そうか。頼む」
会社に向かう車の中で、義父に報告した。
義父は返事をしながら、タブレットから目を離そうともしない。
車内は相変わらず、静寂に包まれていた。
牧場に行く理由は、新薬の治験データの確認だ。
データをメールで送信するのは、禁止されている。
万が一の誤送信や流出を防ぐためだ。
直接、この目でデータを確認して、進捗状況、改良すべき点、懸念事項などを洗い出して、義父へ報告する。
水森さんから僕に代わった、重要な仕事だ。
かといって水森さんの給料は、これまでと変わらない。
僕が、そう頼んでおいた。
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