牢獄

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 水森さんも、この義父と顔を合わせなくて済む。  余計な負担と仕事も減って、開発に集中できるはずだ。  僕にとっても、そうしてもらわないと困る。  午後になって、僕は社用車で牧場へ向かった。  社名も入っていない、ありふれた白の乗用車だ。  峠の途中で、カーナビにも載っていない横道に入る。  標識もなく、舗装すらされていない山道。  フロントガラスの向こうにあるのは、鬱蒼(うっそう)と生い茂った木だけ。 『この先、私有地につき侵入禁止』  大きな立て看板が見えてきた。  それを越えると、ところどころに監視カメラがあるのが見える。  会社を出てから二時間以上過ぎて、ようやく目的地に着いた。  四方を山に囲まれた僻地(へきち)。  誰にも見付からない場所だ。  周囲をぐるりと囲む高い塀で、中の様子は一切見えない。  外から見たら、まるで刑務所のようだ。  正面入口にあるゲートの機械に、カード式の許可証をかざす。  無人だが、監視カメラがいくつも付いている。  外側にある頑丈なシャッターが開いたあと、内側にあるカーゲートが、ゆっくりと開いていく。  巨大な施設が見えてきた。  真っ白な建物で、窓は一階の一部分にしかない。  駐車場に車を停めた僕は、施設の入口へ向かった。  ゲートの外もそうだが、この建物にも社名などが入った看板はない。  施設の入口にも厳重なセキュリティゲートがある。  カードをかざしてゲートを超えると、大きな窓のある警備室が見えた。  中から三人の警備員が、こちらを見ている。  頭を下げてきた警備員に、僕も挨拶した。  そのあと、長く続く病院のような廊下を進んでいく。  物音一つせず、人の気配もまったく感じられない。  この施設には、常に千人以上の特別な仔羊がいる。
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