牢獄

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 僕は奥にある扉から目を逸らして、A棟・治験管理室のドアをノックした。 「苗島(なえじま)さん、こんにちは」 「あぁ、どうも」  中にいたのは、この治験管理室の室長、苗島さんだけだった。  異様に白髪が目立つが、これでもまだ五十五歳になったばかりだ。 「あれ? ほかの方達は?」 「あぁ、休憩に行ってるよ」 「そうですか。コレ、お土産です。みなさんでどうぞ」 「おぅ、ありがたいねぇ」  僕は手土産に、いくつか菓子折りを買ってきた。  この施設の職員達は住み込みで、よほどの理由と許可がないと、外には出られない。  せめてもの慰労(いろう)を込めて、毎回、土産を用意していた。 「滝城さん、今日も治験データの確認か?」 「はい。見せてもらってもいいですか?」  苗島さんは、目の前にある何台ものパソコンの一つに、治験データの結果を表示させて、僕のために椅子を持ってきてくれた。 「ありがとうございます」  座りながら、食い入るようにデータを見ていく。 「さぁて、茶でもいれるかぁ」  苗島さんが席を立ったあと、僕は壁一面にあるたくさんのモニターに目をやった。  そこには各部屋と共用部分の様子が、次々と切り替わって映し出されている。 「ちょっと効き目が強過ぎるんだよなぁ」  苗島さんが、お茶を持ってきた。  コーヒーが苦手だと言ってからは、日本茶が出されるようになった。 「ありがとうございます。データを見ると、そうみたいですね」  思っていた以上の効果は、まだ調整が必要そうだ。
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