牢獄

40/52
67人が本棚に入れています
本棚に追加
/191ページ
「それでは、乾杯」 「乾杯!」 「乾杯」  全員が手にしたグラスを掲げると、僕もそれにならった。  みんなは一気に飲み干したが、僕は口を付けたフリをして一滴も飲まなかった。  飲めるわけがない。  普通のシャンパンは飲めても、ノンアルコールのシャンパンは今も身体が受け付けなかった。  今日の料理に使われた肉は、牧場から仕入れたものらしい。  キメの細かいサシと、やわらかな肉質、脂身もほんのりと甘く、しつこくない。  Aランクの肉だ。  教授の手料理は久しぶりだが、相変わらず美味しかった。  どれも手が込んでいて、盛り付けの見せ方もオビスと同等か、それ以上だ。  食事が終わると、それぞれ席を立って話したい人と話す、談話(だんわ)の時間がやって来た。  全員、グラスを手に隣の部屋へ移っていく。  僕もみんなのあとをついていった。  昔は教授の家に何度も来ていたが、この部屋に入ったのは今日が初めてだった。  さっき食事をした部屋も十分に広かったが、その三倍はあるほど、広い応接間だ。  壁のあちこちには、いくつものソファーと丸い小さなテーブルがある。  部屋の中央は何もなく、ちょっとした舞踏会でもできそうな部屋だった。  教授が古そうな蓄音機(ちくおんき)に針を落とすと、ジャズっぽい曲が静かに流れてきた。  招待客は、それぞれソファーに腰を下ろして談笑を初めている。  僕は、部屋を見渡した。  着古した革ジャンに、薄茶色のサングラス。  昔から何も変わっていない。  蛇塚功監督だ。  僕は、監督の元へ歩み寄った。
/191ページ

最初のコメントを投稿しよう!