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「今も……昨日のこと……みたいに……ずっと……離れなくて……」
僕は、どう返していいのか分からなかった。
あの夜の出来事は、おぞましい体験として記憶にも、この身体にも深く刻まれている。
死ぬまで……いや、死んでも忘れられない。
忘れられるはずがない。
それは、狐洞さんにとっても同じだったようだ。
僕は、あのディナーパーティーで解毒薬を打ってもらい、ようやくの思いで席に着いた。
周囲から浴びせられたのは、憐れみの視線。
やるせない思いでいっぱいだった。
それと同時に、僕の向かい側に座った美波に、周りは恐れるような目を向けていた。
大臣ですら、そうだった。
もしかしたら、美波が悪魔みたいな態度を取ったのは、みんなの前では初めてだったのかもしれない。
現に、これまで僕と参加してきた会合では、そんな態度は一度もなかった。
いつも、しとやかなお嬢様、といった感じで食事と会話を楽しんでいた。
今だって、そうだ。
「真さん……今……お幸せ……ですか?」
唐突な質問だった。
「はい、幸せですよ」
そうとしか答えられない。
狐洞さんは、いったい僕から何を引き出したいのだろう。
「あの夜の……こと……書いても……いい……ですか?」
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