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ブロック肉を結ぶ時に使う、タコ糸だ。
それを美波の首に巻き付け、両手で思い切り引っ張る。
素手で首を締めたら、せっかく今も残っている園田さんの温もりが消えてしまう。
美波は、糸で十分だ。
シャンプーの香りがした。
義父が亡くなったあとも毎日、あの香水を付けていたが、今日は珍しく付けていないようだ。
思いのほか、美波は抵抗してこなかった。
おかげで楽に絞められた。
「心配いらないよ。美波は僕が美味しく食べてやる」
寒空の下、僕は美波を乗せた車を走らせた。
明日の朝、家政婦さんが来たら、こう言うつもりだ。
夕べ、僕がディナーの準備をしている間に、美波は出ていったようで、まだ戻っていない。
スマホも置いていったせいで、連絡も取れない。
食卓の脇には、料理を乗せたワゴンをそのままにしておく。
結婚記念日でプレゼントしようとした、ネックレスも一緒に。
明日は一日中、家で美波の帰りを待つフリをして、さらに翌日、警察に行方不明者届を出そう。
担当してくれる警察官には、義父の死後、ずっとふさぎ込んでいて家出かもしれないが、と伝えておく。
実際、そのふさぎ込みようは、家政婦さんも知っている。
単なる家出だと思われるはずだ。
それでも万が一、必要以上に捜索されそうになったら、会合で懇意にしている警察のトップに話をつけておこう。
美波は、ちゃんと苦しんで死んだだろうか?
僕が受けてきた苦しみに比べたら、ほんの一瞬だ。
本当なら、生きたまま焼いてやりたいくらいだった。
だが、僕にそんな趣味はない。
フロントガラスの向こうの暗がりに、目的地が見えてきた。
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