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「やぁ、いらっしゃい」
笑顔で出迎えてくれたのは、教授だ。
「連絡していたモノを持ってきました」
「運ぶのを手伝おうか?」
「いえ、僕一人で大丈夫です」
家を出る前、僕は教授に連絡していた。
いい肉が手に入った、と。
もちろん、教授のスケジュールが空いていたのも事前に、それとなく確認済だった。
あの家で、美波を解体するわけにはいかない。
いくらキッチンが広いとはいえ、解体用の道具もなければ、血抜きも簡単ではないし、骨の処分だってできない。
保管場所にしてもそうだ。
僕一人の食事では、肉も余る。
明日の朝には、いつも通りに家政婦さんがやって来る。
冷蔵庫や冷凍庫にある肉の塊を見たら、それこそ腰を抜かすだろう。
本当なら、この日のために専用の隠れ家を用意したかったが、それもできない。
物件の下見や契約など、バレてしまっては元も子もないからだ。
だが、この教授の家なら、必要な物はすべて揃っている。
「それじゃ、ここに吊るしてもらおうか」
「はい」
まずは血抜きだ。
背中側の首の付け根にフックを深く突き刺して、鎖を引っ張り上げる。
宙に浮いていく美波を眺めていると、あるところで目が留まった。
石の付いた小さな花飾りをぶら下げた金色のチェーンが、手首でキラキラと輝きを放っている。
誕生日にプレゼントしたブレスレットだ。
その顔を見上げると、耳には去年プレゼントしたピアスがある。
これまで僕がプレゼントしてきたものは、僕とデートに行く時くらいしか付けていなかった。
今日に限って、それを付けていたなんて……皮肉にもほどがある。
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