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血抜きを終えたあとの解体は、教授と二人で分担した。
僕の担当は、腕と足だ。
胴体にあるのは、内臓。
胃や腸などの内臓は、特殊な洗浄が必要になる。
そこは、プロの教授に任せておいた。
キッチンの広い作業場で、二人並んで料理をするのも久しぶりだ。
僕は、チラリと隣に目をやった。
六年前のあの日から、僕は教授を避けて、顔を合わせたとしても素っ気ない態度をとってきた。
そんな僕に、教授は機嫌を取ってくるはず。
僕は、そう踏んで慎重に網を張っていた。
これまで僕は、いいように教授達にもてあそばれてきた。
本音を言えば話もしたくないし、顔も見たくなかったが、しかたがない。
すべては、このプランを成功させるためだった。
僕はもう、あの頃の僕とは違う。
自分の感情すら、コントロールできるようになっている。
教授の前で流した涙も半分は本心だったが、それを前面に押し出すことで、自然な涙を流せていた。
僕は、まだ純粋だった頃の自分を演じてみせたってわけだ。
誰も信用できない。
信用してはいけない。
これは、身をもって教授から学んだことだ。
今、教授と僕は、ようやく対等の立場になれた。
いや、僕の地位は、それ以上だ。
牧場で飼育の総監修を務める教授。
牧場の第一出資者である僕。
心理学、行動学、人間のあらゆる面を教授は知り尽くしている。
食材を集める方法にしても、教授は一役買っていた。
いつか僕は、そんな教授を越えてみせる。
急いではいけない。
じっくりと……確実に。
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