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美波は愛情をどう表現していいのか、分からなかった。
そして、心の底から僕を愛していた。
教授が、そう続けた。
あの……イカれた女が?
美波は父親に似て、ただの独占欲の塊だった。
僕を手玉にして、さぞかし満足だったろう。
あんなのは、愛とはいえない。
子供が欲しがるおもちゃを手にして、ただ喜んでいただけだ。
従順な妻の仮面の下には、悪魔のような顔がある。
忌まわしいディナーパーティーで、究極の選択を迫ってきた美波。
どちらに転んでも、僕は美波のものになっていた。
あの瞬間から、僕は自由を奪われたも同然だった。
生きながらえる道を選んだあとも……ずっと美波の存在に怯え続けていた。
婚約してすぐは無理でも、僕は少しずつ美波への接し方を変えた。
疑惑を持たれないようにするためだ。
父親譲りで切れる頭を持つ美波には、じっくりと時間をかける必要があった。
僕のプランは、長期戦を覚悟の上だった。
美波に『愛してる』と、心にもない言葉を口にしたのもそうだ。
頭がいい反面、美波は意外と単純なところもあった。
その乙女心をくすぐってやるだけでいい。
疑いようのない本物の愛と、信用を得るために僕はそうしてきた。
「実は、美波君から連絡をもらっていてね」
「美波から、ですか?」
義父が亡くなって少し経った頃、美波は教授に連絡していたらしい。
自分に万が一のことがあったら、僕を頼む……と。
滝城家で一人になった僕が頼れるのは、教授しかいない。
そう思っていたようだ。
と、教授が言った。
まさか美波は……。
自分の身に何が起きるのか、予想していたのか?
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