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普通の人は気付かない。
毒性があるといっても、悪臭とは限らないからだ。
こちら側にいる人だけが、本能でそれを感じ取る。
あの香水は、美波が生まれたあとに、義父がわざわざ作らせたものだったらしい。
女の子である美波を守るため、だったのだろう。
完成した香水は、こちら側にいる女性達にも販売できるよう、義父は特別なルートを作っていたそうだ。
男性よりも女性のほうが、捕食される確率は高い。
自分の娘と同じで、同志でもある女性達を守りたかったのかもしれない。
大学生の頃、教授をけしかけて美波を食べようとした時、僕は心の底から美波を食べたかったわけじゃない。
ただ邪魔者を排除したかっただけだ。
今回も、僕には香水の効果をも越える、強い殺意があった。
残念ながら、義父の想いは僕には効かなかったようだ。
「今日の美波君は、あの香水をつけていなかったようだね」
教授が目を細めながら言った。
まさか香水に、そんな意味があったとは知らなかった。
今日に限って、いつもの香水をつけていなかった美波。
それを僕は珍しいな、くらいにしか思っていなかった。
忌まわしいディナーパーティーで、美波は僕のたくらみを知っていた。
自分が捕食されようとしていたのに、両想いだと勘違いして喜んでいた。
今日、僕がプレゼントしたものを身に付けていたのも。
いつもの香水をつけていなかったのも。
首を締められても抵抗すらしなかったのも。
すべて分かっていた上で、僕に殺されたというのか?
だとしたら……。
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