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意味が分からなかった。
「美波君の子宮には、胎児がいてね」
「胎……児?」
「美波君は妊娠していたようだよ。あの大きさだと、三か月を過ぎたところだろうね」
……妊娠。
僕は美波から、何も聞かされていなかった。
胎児の大きさは八センチほどあって、骨も形成されていたそうだ。
教授が言うには、子宮から取り出した時、胎児は動いていたらしい。
美波が死んだあとも、その体内で胎児はまだ……生きていた。
「いくらなんでも生きたまま、切り刻んだりはできないからね」
教授は胎児の首をそっと捻っておいた、と続けた。
僕は、おそるおそる手にしていた小さな骨を見下ろした。
手が震えてくる。
小さな白い骨が、僕の手を離れてテーブルに落ちていった。
「……すみません、ちょっと……失礼します」
僕はトイレに駆け込んだ。
ついさっきまで食べてきた料理が、一気に喉へ押し寄せてくる。
何度もむせながら、次々と吐き出していくと、便器の中が茶色に染まっていった。
レバーを引いて水で流したあとも、口の中は酸っぱくて、いやな後味が残っていた。
……胎児。
……子供。
僕の……。
それを僕は……。
胃の中のものは、すべて吐き出したというのに、再び強烈な吐き気に襲われた。
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