70人が本棚に入れています
本棚に追加
今になって思えば、あのディナーパーティーも裏で密かにああなるよう仕向けていたのは、教授だったのかもしれない。
教授は人間のあらゆる面を知り尽くしている。
あんな鬼畜な美波でも、コントロールできたはずだ。
究極の二択を用意していたのも、僕がどちらを選ぶのか分かっていた上で……?
もしかしたら、今日のことも……?
そう考えるのが自然に思える。
何年もの間、地獄の中で慎重に実行してきた僕のプランが、音を立てて崩れていった。
成功したように見えていても、最後の最後でしてやられた。
教授はチェスの駒にでも見立てて、僕達をもてあそんでいたのかもしれない。
結局、今も僕は……教授の足元にすら及んでいなかった。
僕は、手洗い場で口の中をゆすいだ。
何度も、何度も。
いくらゆすいだところで、喉の奥に残る嫌な後味は消えてくれない。
顔を上げると、自分の顔が目の前の鏡に映った。
あの頃と変わらない、情けない顔。
僕は、それを睨み付けた。
「教授、席を外してすみませんでした」
僕はミネラルウォーターを口に含んだ。
目の前のカジョスに、フォークを握る手が震えてくる。
「無理しないほうがいい」
「いえ、大丈夫ですよ。美波からの、せっかくのサプライズですから」
フォークでスープの中からモツを拾い上げて、頬張る。
喉の奥が拒否しても無理矢理、それを飲み込んだ。
これを食べないわけにはいかない。
一口食べるごとに、僕はまた成長できるはずだ。
教授を越えるには、すべてを平らげなくてはならない。
たとえそれが……僕の子供だろうと。
最初のコメントを投稿しよう!