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「本日のお料理は、全部で十二品でございます」
「そ、そんなに? 食べきれる……かな。もし残したら、教授に悪いよね?」
今日は緊張していたせいで、朝から何も食べていなかった。
いくら空腹でも、全部食べきれるだろうか。
「大丈夫、心配しないで」
十二品という数には、食後のデザートと飲み物も含まれているそうだ。
料理も食べ残して構わない、と彼女は言ってくれた。
「飯野君、嫌いなものとか、食べられないものとかある?」
「あ、食べ物は大丈夫だけど……コーヒーがちょっと苦手、かな」
食後の飲み物といえば、ほとんどがコーヒーだ。
僕は、あの苦みが少し苦手だった。
「そうなんだ。教授に言っておくね」
彼女がドアの向こうに消えたあと、あらためて周りを見渡した。
ヨーロッパの宮殿を思わせる豪華な部屋。
壁には何枚もの絵が飾られている。
どれも外国の城や、風景を描いたものだ。
ここで場違いなのは、僕だけ。
『正装じゃなくて、いつもの普段着でいいから』
園田さんは誘ってくれた時、そう言っていた。
だから、いつもと変わらないパーカーとジーンズ姿で来たけれど、なんだか惨めに思えてくる。
一人分の食器しか用意されていないテーブルと、静寂。
不安になってきた僕は、ポケットからメモを取り出した。
それを思い切り吸い込むと、まだかすかに残っている香りが、気持ちを少し落ち着かせてくれた。
嘉庭教授はなぜ、試食会に僕を招待したのだろうか?
そういえば、ここに来てから教授の姿は、まだ一度も見ていない。
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