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【アボカドの生ハム包みバルサミコスソース】は、見た目が美しかった。
生ハムの赤に包まれたアボカドの緑が、真っ白な皿の上で際立っている。
塩気と濃厚さのバランスが絶妙な一品だった。
【三種のクロスティーニ】は、ちょっとつまめるパン料理だ。
小さなトーストの上に、クリームチーズやゴルゴンゾーラのチーズ、スライスされたマッシュルーム、サーモン、ミニトマトと、それぞれ乗せられている。
色のコントラストが素晴らしく、見た目はとても可愛らしい。
さっきの料理もそうだけれど、一気にテーブルが華やかになった。
どれも食べたことのない料理ばかりで、初めて味わう美味しさだった。
次の料理を運んできた時、園田さんは片方の足を引きずっていた。
短いスカートからのぞく膝の下に、大きな絆創膏が貼られている。
さっきまで、絆創膏なんて貼っていなかったはずだ。
彼女は無言で、僕の前に鮮やかなオレンジ色の不思議な形をした小さな鍋を置いた。
鍋のフタが、円錐状になっている。
「園田さん、足……どうしたの?」
「うん、ちょっと、ね。油がはねて、ヤケドしちゃった」
顔を引きつらせながら、苦笑いをしている。
「僕も手伝うよ!」
慌てて立ち上がろうとすると、彼女は僕の肩を押し下げた。
「私なら大丈夫。今日の主賓は、飯野君だから。ほら、ご主人様は席に座ってないと」
肩に触れた手の感触。
『ご主人様』と呼んでくれた彼女の声。
胸の奥に、たぎるものがあふれてきた。
怪我の心配よりも、別のことで舞い上がりそうになる。
と、その時、スピーカーから教授の声がした。
『【すね肉のモロッコ風タジン】』
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