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園田さんに代わって、教授が料理の説明をしてくれている。
すね肉。
すね……肉。
すね……すね……すね……?
教授の言った部位が、頭の中で繰り返されていく。
僕は、彼女の膝下にある絆創膏に目をやった。
これは……ただの偶然、だ。
園田さんが鍋のフタを開けてくれた。
肉料理にしては、鍋にある肉は二欠片だけだった。
ほかに入っているのは、じゃがいもや人参などの野菜だ。
僕は、おそるおそる肉の一つを口に運んだ。
羊のすね肉はとてもやわらかく、クセはほとんど感じられない。
スパイスも効いていて、とても美味しい。
でも、僕の頭は、ほかのことでいっぱいだった。
彼女は『油がはねた』と言っていたけれど、これは鍋料理だ。
フタはずっとしたままで、油がはねるなんてことは……ない。
だけど、全部で十二品もあるのだから、同時にほかの料理もしているはず。
それで油がはねて。
きっと、そうだ。
そうじゃないとしたら……。
戸惑いながら、二つ目の肉を口へ運ぶ。
これは本当に……羊の肉、なんだろうか?
頭の中で、糸が複雑に絡まっている。
それでも僕は、野菜もすべて平らげた。
園田さんが次の料理を運んできた。
今度は、別の場所に大きな絆創膏が貼られている。
大きく開いた胸元から見える、肩の辺りだ。
彼女が料理の皿を置くと同時に、教授の声がした。
『それは【ミルクラムの肩ロース赤ワイン煮込み】だよ』
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