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肩……ロース?
ゴクリと喉が鳴る。
偶然が重なっただけだ。
こんなこと、現実に……あるワケがない。
そう思いながら、震える手で肉の塊を口に運んだ。
『ミルクラムというのはね、生後二、三か月以内の母乳で育った仔羊のことだよ』
肉がやわらかく、クセが出始める前の仔羊の肩ロースをあえて煮込むことで、口の中でとろける食感を楽しんでほしい。
教授が、そう言った。
確かに、口の中で肉がとろけていく。
消えてなくなる前に、僕は味わい深さの奥に隠れた、本当の味を探していた。
次に出てきたのは、魚料理だった。
【ヒラメのソテー】と【カツオのカルパッチョ】。
心なしか、落胆しているのが自分でも分かる。
もちろん、魚料理も美味しかった。
美味しかったけれど……。
これで何品目だろう。
テーブルに乗せられた料理を数えてみると、七品ある。
食べ残している料理と、すべて平らげた料理。
その違いは、一目瞭然だ。
胃袋もそろそろ満たされてきたはずなのに、まだ何かが満たされていない。
かぐわしい香りとともに、園田さんが次の料理を運んできた。
目の前に置かれた料理に、大きく息を吸い込む。
待ちかねた肉料理だ。
『【地鶏むね肉の香草焼き】だよ』
当然のように、彼女の絆創膏は増えている。
大きく開いた胸元から、胸の辺りに絆創膏が見えた。
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