第4話 ダイエットと、モッツァレラトマトつけ麺 その3 モッツァレラトマトつけ麺

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第4話 ダイエットと、モッツァレラトマトつけ麺 その3 モッツァレラトマトつけ麺

 医務室には、監督にも来てもらった。  目覚めたミュンに、事情を聞く。 「試合?」 「うん。マギボクシング部の」  ミュンがしょぼくれていた原因は、プロテストに向けての減量だった。  身体測定ではなかったのか。 「あと五〇〇グラム足りなくてさ」 「なのに、痩せづらい身体になっちまったと」 「もうほとんど何も食べてなくて」 「停滞期に入っちまったんだな」  人間の脳はある程度痩せると、体重を一定に保つ機能が働く。これが、停滞期だ。  ボディービルダーとかは、定期的にチートデイを設けて、わざと食事をするらしい。脳を騙すためだ。  とはいえボクサーがそれをマネても、余計に贅肉がついてしまうだろう。 「魔法使いって聞いたが、なにか特別な料理なんかは食うのか?」  監督に話を聞いてみる。 「たしか魔法使いってのは、好物を消費して魔法を使うんだよな?」 「うむ。『脳を酷使するから、魔術師は甘いもの好き』というのは、だたの迷信だ」  実際の魔法使いは、なんでも口にする。辛いものが好きな者もいれば、酒好きもいるのだ。  そのため、減量するには相手の好みを聞いておかなければ。 「お前さんは、ラーメンでいいんだよな?」 「うん。でも、糖質やカロリーまでは、ボクシングや魔法だけじゃ消費しきれないんだよね」  ということは、普段は結構な大食漢なのか。  できれば、ガッツリ食わせてやりたい。  「わかった。ダイエットメニューを考えてやる」 「ほんと!?」  とは言ってみたものの、なにかいいアイデアはないものか。  翌朝、仕入れのお姉さんが来てくれた。 「おはよ~ございま~す」  ドリアードのモクバさんである。見た目はパペットで、種族はウッドゴーレムだ。髪の一部がツタになっていて、一本おさげに結っている。 「いつも、ありがとうございます。ご亭主はお元気ですか?」 「は~い。あちらで突っ立っていますよ~っ」  校庭を見ると、一本のカカシがカラスを目だけで追い払っていた。あの方が、モクバさんのご亭主だ。  モクバさんは私立リックワード女学院・魔法科学校のOBであり、一家で校庭を菜園にしている。  ポーション用の薬草や、学食用の野菜を作るのが主な仕事だ。  我ら学食班の、要である。  彼女らがいなければ、学生たちに安く料理を提供できない。 「あの、ものは相談なんですが、ちょいと事情がありまして」  オレは、生徒がダイエットで悩んでいると話す。 「では、トマトなんていかがでしょ~?」 「それは考えたんですが、もっとガッツリ食わせてやりたくて」 「わかりました。歪なトマトが大量に出てしまったので、こちらをタダでお譲りします~」  カゴいっぱいに、トマトをもらう。たしかに、どれも形が悪い。 「いいんですか? こんなにたくさん」 「構いませんよ~。ジュースにして、トマト味ポーションにしよっかな~って思っていたクライなので~」  ジュース……それだ! 「おっちゃん。いつもごめんね」  昼食時、ミュンはまた、サラダだけの食券を買いに来る。 「放課後、また来てくれ。今日はおまえさんのために、特別メニューを考えてやった」 「うそ。マジで!?」 「ああ。ラーメンだ」 「ラーメン! ああ、食べたい!」  ラーメンの言葉を聞いただけで、ミュンの目がシイタケのように輝いた。  放課後……。  オレは、ミュンを食堂に連れて行った。コーチや他のボクシング部員たちにも来てもらう。ちゃんとした―メニューかどうか、チェックが必要だからだ。 「おまちどう。モッツァレラチーズとトマトのつけ麺だ」  時間操作魔法で、なるべく時間をかけずに提供する。 「おお、トマトのいい香り」  トマトをペースト状にした『つけ麺』だ。モッツァレラチーズが中に入っていて、二種類の麺を楽しめる。 「モッツァレラチーズとは、随分とシャレた味なのだな? 口当たりは濃いのに、ヘルシーな気がする」  タンパク質の補給もできて低糖質なのが、モッツァレラの売りだ。 「この油、しつこくない! なにこれ?」 「サバ缶だ」  モッツァレラトマトといえばオリーブイオイルなんだが、今回はサバの油を活用した。ダイエットにも、多少の効果があるらしい。 「普通の麺もおいしいけど、こっちの麺もめちゃウマ! でも、小麦粉は使っていないよね?」 「コンニャクだ」  糖質を抑えたいときに、こちらを提供しようかと考えている。スープが麺に絡むかどうか心配だったが、スープをペースト状にしたのは正解だったようだな。 「ああ、おかわりしたい」 「さすがにそれは、ガマンしな。で、監督、どうだろう?」 「いいじゃないか! これは採用だ!」  監督からも太鼓判を押してもらって、正式にメニュー化が決定した。 ……までは、よかったんだけどな。 「大将! あたしもつけ麺!」 「私も!」  その後、トマトつけ麺フィーバーはとどまるところを知らず、身体測定後も収まらなかった。 「おっちゃん、いつもの! それと、トマトつけ麺も!」  元気になったミュンが、しょうゆラーメンをリクエストする。 「おっ、もういいのか?」 「おっちゃんのおかげで勝ったよ! プロテスト合格!」  賞状を手に、ミュンがガッツポーズを取った。 「パピヨン・ミュン。プロテスト合格おめでとうございます」 「ありがとう、デボラちゃん! あたし、がんばるからね!」  ようやくミュンにも、しょうゆラーメンを食える日常が戻ってきたみたいだ。 「見てみておじー。三キロやせたー」  身体測定の結果表を、ギャルがオレに見せてくれた。  ピースサインをするギャルは、女子からのジェラシー満載な視線に一切気づかない。   (トマトつけ麺編 おしまい)
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